観て頂きたい!今月のお勧めの映画 「爆弾」監督 永井 聡
「爆弾」 監督 永井 聡
制御不能な熱狂、邦画の限界を打ち破る傑作!
永井聡監督にはもともと期待値は高かったのですが、本作で示された創造性はその期待を遙かに凌駕しました。特に、物語の大半が取調室という密室で展開されるにもかかわらず、全く観客を飽きさせない手腕には舌を巻きます。
照明、カメラワーク、緻密なカット割り、すべてが計算し尽くされた「闇の美学」によって、137分間、画面から目を離す隙を与えません。このモノトーンの世界観こそが、密室劇に狂気的なテンポと緊張感をもたらしているのかも。
そして何より特筆すべきは、出演俳優陣が繰り広げる鬼気迫る応酬。
山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎ら、名優たちが互いの芝居を高め合う様は圧巻で、台詞にはない彼らの背景や人生の重みが、表情の奥から滲み出ています。
中でも、佐藤二朗が体現した容疑者の姿は、まさに”怪優”と呼ぶにふさわしいです。彼の一挙手一投足、人をあざ笑うような視線と言動は、これまで見たことのない新たな犯罪者像を提示し、日本サスペンス界に新たな一線を画す気がしますね。
また、タイトルが示す通りの「爆弾」が炸裂するシーンは、本作のクライマックスを飾る五感を揺さぶります。
安っぽさが一切ない、重厚で迫真の爆発描写は、轟音とともに観客の心臓を鷲掴みにしたはず。
そして、単なる派手さで終わらないのが永井監督の凄みです。破片が飛び散り、民間人が巻き込まれ、現実の悲劇がそのまま映像化されるような、エキストラ一人ひとりの切迫した反応のリアルさによって、フィクションでありながらも事件の非凡さを直感的に感じさせられました。
取調室の心理戦だけでなく、現場で奮闘する倖田・矢吹コンビ(伊藤沙莉、坂東龍太)の軽快ながらも信頼に満ちた捜査劇が、物語に絶妙なアクセントを加えていました。警察内部の軋轢や、翻弄されながらも職務に燃える捜査員の熱意が深く描かれており、多角的な面白さが楽しめる作品です。
佐藤二朗の狂気、大迫力のスペクタクル、そして極限の緊張感に魅せられっぱなしの本作は、「傑作」という言葉では物足りない!!
観賞直後に「もう一度あの熱を浴びたい」と思わせる、中毒性の高い作品かと思います。